アトリエ訪問第46回 伊豆田雪岳氏

日本の書の健やかな将来のため微力を注ぎたい。

■ プロフィール:

・毎日書道展審査会員 ・元広島県美術展覧会審査員
・奎星会同人鑑審査員 ・伊豆田雪岳書道学院代表
・玄穹書道会会長 ・NHK文化センター講師
・中国新聞文化センター講師

■ 人寰に書の虚空をつくらない

  「わが国の書道界にとって大事なのはイデオロギーではない」と説かれる伊豆田氏。
  毎日書道展でも審査会員として活躍され、書の進展にも力をつくされてきた氏は、今、書を文化として再認識し、方途を見直すべき時にきているのではないかと説かれる。
  「書壇活動」と「一般人の書への認識」との間に、余りにも大きな「虚空」が存在する。書を芸術という狭義な理論で提示するのではなく、わが国文化の一分野、なかんずく源流として捉え、一般人の目線に併せた、理解しやすい書活動を展開していくべきではないか。
  芸術論が先走って自我自尊に陥ることなく、新しい明日の書文化の形を提示していくことが大切なことだといわれた。
  門下生のために「花のある道」という理論月報も発行されているようだ。最新号のテーマは「技術と感性」という一文でこれには心惹かれた。技術は古典という仕入れ先があるが、感性には固定した仕入先がない。されど感性なくして作品は創れない。果たしてその処方箋とは…。

■古木心

  アトリエに伺って一番に感じたのは清浄な空気。整理された机に2畳ほどの黒いフエルトが敷かれ、すっと筆をとって、いつでも気持ちよく揮毫出来そうな環境であることだ。
  氏はここで門下生の指導に当たっておられると共に、多くの文筆や書籍を収集され保管されている。書の源流中国の文化を理解し、中国の人々と交流をすすめるため、かつて中国語学院も開かれていそうだ。(1985~96)
  教室では(宋拓十七帖 「欠十七行本」)という古い法帖を見せていただき節臨していただいた。大きな硯から流れるように空中に出て、繊細な筆が生み出す筆跡を見ていると、普段自分たちが文字を書くという作業とはちがう大きな意味が付加されていることに気付いた。それは微妙な筆の操りにあることがわかり、素人ながら書は時間と空間を留める芸術なのだと思った。
  また氏は、若い時はしっかり技術を習得し、枝葉を茂らせ天へと向かって伸びることに夢中になるものだが、今は加齢から禅語にある「古木心」の心境になられたそうだ。枝葉は生きるに必要な最小限でよく、しかし、幹はどっしりと太くありたいと…。
  筆先からながれる時間が、静かにゆったりと広がっていくようだった。

<文/ 泉尾祥子・写真/ 原敏昭>

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取材中の風景