アトリエ訪問第51回 青木啓幸氏

土は何万年もの歳月をかけ堆積された夢の脈。土に素直に、火に素直に、心素直に。

■土璃夢の会 代表 明幸窯
広島県工芸美術作家協会 会員
国際美術審議会 正会員
国際公募美術家連展 理事

1991年 三上猛氏に師事
1992年 広島市安佐南区に築窯初窯
1998年 イーグルドニース美術協会10周年記念
     国際展 初入選
最近では―
2007年 国際芸術文化交流展 フランスリヨン美術協会賞(サロンドプランタン)
     第35回連展 奨励賞
2008年 国際芸術文化交流展 ドイツ連邦共和国総領事館賞
     第35回連展 秀作賞
2009年 国際芸術文化交流展 審査員特別賞

■ 土との出会い

平成元年、開発中の西風新都とともに広島市がその拡がりを結実させていた頃、青木氏は前職NTTでケーブルを埋設するためのトンネルを広島市中心部や安佐南区まで通すという仕事をされていた。
現在、インターネットをささえる光ケーブルなどが通っている祇園共同溝もそうだ。
NTTとう道はなんと、自転車が通れるくらい大きいとのこと。広島城あたりで円形立抗にドッキングしているそれは、地下26メートルという深さ。
広島は砂州というイメージが強いが、氏はそこで粘土層に出会ったという。
古い地層、貝殻なども混じった土に魅かれ、その土を作陶したのが始まりだ。

初めての作品は「広島の地層出身のぐい呑み」。一緒に工事をしていた人々に記念に配ったとのこと、 始まりから使う人の喜ぶもの、心を癒すものを志されていたことが、うかがえるエピソードだ。

■ 土に導かれて

作陶に魅せられた氏は、平成3年頃は会社から帰って食卓で土を削り、夏はベランダで、冬は玄関でと制作に入り込んだ生活、4年には自分の窯を用意、平成10年に現在の明幸窯を安佐南区に構えられた。
早くに数々の賞にめぐまれ、国際的に活躍されている。と、ともに近くの特別養護老人ホームでは作陶の指導をされ、地域の笑顔に貢献される日々を過ごされている。

■ 土に素直に、自然の心

陶芸は火と、土と、風の営みに触れる芸術だと言われるが、窯をみせて戴きながら聞くとそれがよくわかる気がした。氏の作品の地肌には様々な味がみられる。窯の中の火の通り道に合わせて置き、作品の凹凸で風の向きが変わり、火が反れる様や回り込む様で色の違いが出てくるのだとか。
これまで太陽や水によって風が起こるイメージを作品に表されてきた氏。去年からは仏の衣のイメージを追いかけているそうだ。
その優しい流れで、作品にふれる人を癒すことができたら…との念いが込められている。

■ 土の癒しをあまねく

お年寄りに作陶の指導をされる折には、作陶の楽しみを受け取れるよう土を選び、やさしくつくれるよう手順を工夫されて、手元に置いて喜ばれるものをと考え抜かれている。来年の干支の虎に裃を着せた作品は、作るひとりひとりの表情が面白くあらわれ味わいがあるそうだ。地域の銀行のロビー展で公開され、特別擁護老人ホームと地域の交流のもとになっている。

■ 土の星に住む

アトリエに訪ねた折に制作中の作品をみせていただいた。調湿のための布を外して現れたのは、無限の文様がおもてに踊る作品。
時間と空間の果てしのない広がりを概念としてもてる人類。その心は、この地球の土の上で進化し、育ったものだ。
氏は制作の時季を星の運行から得ている。月が上弦で満月になる刻を土を形造る時にあて、削りで整える時を下弦の刻にあわせるのだそうだ。
星の成分に新たなかたちと新たなときを…。
お話を聞いて思うのは、氏の作品は、土が夢を見ている時間を人と共有する形なのではないかという こと。
みんな土の上で生きてきたのだ。作品のテーマや表現方法のほかに、青木氏がかたち造る過程の基底に 流れるそのメッセージが、器に触れるひとを癒し続けるのだろう。

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取材中の風景