第61回アトリエ訪問  書家 田中白雲氏

■■何処にいて何に時をかけるか。その配分は大事だ。■■

■ プロフィール
一書會 事務局
廣島書道学院 事務局
Sho検 検定委員・事務局
国際書道文化交流展 実行委員・審査員
広島情報ビジネス専門学校 講師

■ ひとの営みに添って

 いつも賑やかな街も、子どもたちが学校に吸い込まれたあとは庭木のそよぎが聞こえるほどのどかになる。訪れた白雲先生のアトリエは大きなベットタウンのなかにある。
書家を一生の仕事にしようというのは並大抵では維持できない、目指すという決心をしたときに自身の経営センスも問われる覚悟をした。書を学ぶ人口の推移をかんがみ、拠点を決めたそうだ。
当時出来たばかりの街には子どもたちが増えていく。街の成長と成熟。その過程をともに生きること。それが人々の必要に応えることになると考えた。
書家とはその探求をしていく芸術を担う存在であると同時に人とかかわる仕事でもある。
道の高みを目指す一方で地域に溶け込み、人と共に在ることも必要なのだ。

■ 子どもたちの成長に

 お手本にそって書くというパターンで小学校の子どもたちの指導をする時は授業の流れに
合わせた課題を自ら考えているそうだ。授業で重点をおかれている指導目標が書き順で在る時は、
書き順を間違えやすいものを組み合わせた課題を作り、筆運びを通して身にしみ込ませる。頭だけでなく、体で覚えるために子供達の芯となりうるのだと言われた。
 また、自宅の2階にある教室では、時折美味しい香りが漂ってくることもあるとか。書の指導も手伝われる奥様が、パン教室を開かれている。そこにも人が集まるのだ。暖かい空間に迎え入れられている雰囲気が子どもたちにも伝わる。子どもたちの心は社会に見守られた安心感のなかで育まれる。

■ 街の心の豊かさを担う

 “大塚おやじクラブ”のメンバーとして、地域の史跡を探検するイベントなど大人もこの街で人生を楽しむことを提案していく。書家としての精進をすすめる時間、書の指導をする時間の他、街の世話役に奉ずる時間も設定して生き方の時間構成を心地よいものにしているそうだ。
PTA、大塚コーラス、民生委員・児童委員といった役割をそれぞれ大事にしているとのこと。
 楽しい時間を街と共に生きる。必要とされるときにそこに在る。これからも目指しているものは変わらない。自身が小学校2年生から弟子入りしてからずっと師と仰ぐ正木嗣鵬先生。そのつながりが大事であるように、自分の教え子たちが大きくなり、またその子どもたちが手習いにくる。縁を育てているのだ。そのほかにも自宅の庭のデッキを手作りしたり、畑に精をだしたり、 先生は豊かな時間を生きている。その人柄に魅かれて、書を手元におきたいと望まれる。人々が求める書とは、毎日の生活に寄り添うものなのだから

<文/泉尾祥子 ・ 写真/原敏昭>

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取材中の風景