第64回アトリエ訪問   画家 西村不可止

元陽会委員(広島支部副支部長)
絵画団体グループ「集」会員
萩市美展招待作家
広島指月会(萩高等学校同窓会広島支部)会長
Yuiコンピューティング(株)顧問

■ 想起の上をゆく多様性
アトリエ訪問をする際は、もう一度サイトに寄せられている作品を見る。元来ぼーっと暮らしているためか、新たな驚きを感じることも多い。今回、西村不可止先生の項にアクセスした結果がそれだ。それまで、同じ画家の作品と思っていなかった絵が同じ場所で展開されている。「クラウド」、「オフショア」などの新しいITや経済概念がテーマになっているシリーズと同時に、案山子や地蔵がほのぼの明るく描かれている郷里シリーズ、多角視点で描かれたキュビズムの作品等、経年による発展だけではなく、同時期にも発信されているのだ。このため、それぞれのテーマが、隔絶していると思えるほど多面である氏は一体どういった方なのだろうと不思議に思っていた。

■ IT
暑い季節に訪ねたアトリエは川沿いのマンションの高層階で、氏の友人から贈られた埴輪やベランダの緑を自然の風が心地よく吹き抜ける空間だ。時代に先駆けてITシリーズを展開出来た理由をここで聞くこととなった。NTTの前身の電電公社に入社し、昭和の終わる一年前に、NTTデータが設立されたと同時に転籍。一般の人々がコンピュータに触れるまえからコンピュータのSEとして活躍されていた氏は、その後、時代に応じてニューメディアやIT革命について講義したり、プライバシーマークやISO2700の情報セキュリティなど、コンピュータ業界に約40年携わっておられた。

■ 対象との共鳴を求めて
氏が本格的に画業に入られたのは41才と遅いスタートだと言われた。そのため、試行錯誤を無期限にするのではなく、人生のスパンの密度を上げるため、主題を一定期間毎に見直すよう考られたそうだ。はじめは漁村シリーズとして廃船や民家を描いていた。5年目に、自分が育ったのは農村であり、漁師についての共感がどこまでできているのかと自問自答したそうだ。しばらく何も描けない時期を過ごし、ある日職場の廃棄物のSCSIボードの山を見て、自分と親和性の高い世界を描くことに思い至ったとのこと。ハイテクシリーズの始まりである。観賞する人々からすれば、時代の先端が過去のように扱われる絵は未知の体験に相当したと思う。

■ 内から観る
一定期間毎に主題を見直す氏には「非戦シリーズ」がある。原爆ドームの中から見た風景。夾竹桃の樹の中心から描かれた佇まい。沖縄の高等師範学校の生徒たちが最期を迎えた洞の中から見た風景。洞の外から描くと、その視点は米軍のものとなり、主題に添わないのだと言われた。内から観るという事に徹底していると、共感力が増されるのか、普段通り過ごしてしまう事実を捉える視点がもてる。その一例を話していただいた。沖縄の観光コースともなっている「ひめゆりの塔」以外にも沖縄戦の末期に非業の最期を迎えた若者を慰霊する塔がある。沖縄県立第二高等女学校の生徒で結成された白梅学徒看護隊員慰霊する「白梅の塔」である。命として同じでありながら余り知られておらず、一般の旅行者はその存在に思いすら馳せることはない。氏にあるのは傍観者となりたくない。という強い意思だ。

■ 自然の情景と先端社会、非戦の共通項
「郷里シリーズ」は一転明るい色彩が柔らかく広がっている。五穀豊穣を願う案山子は踊りだしそうな表情で風を受けている。氏が育った萩の奥の村。子供のころの記憶と、3週に1度は訪れるといわれる現在の郷里が親しみ深く描きとめられる。情景の再構成は自分の世界との対話。そこに心の深層への旅がある。それも内観なのだ。そして、テクノロジーの廃棄物をいち早く懐古としてとらえる立場にもいた。氏にとっては全てが自分の一部だったのだ。有り余る多様性は、大きな世界を所有している個人の、自然な表象なのだと納得した。

<文/泉尾祥子 ・ 写真/原敏昭>

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取材中の風景