昭和34年 5月 広島市に生まれる
昭和53年 3月 広島県立広島商業高等学校卒業
昭和56年 3月 大東文化大学文学部中国文学科卒業
昭和60年 4月 広島県立高等学校芸術科書道教諭
平成24年 3月 広島県立高等学校芸術科書道教諭を退職
書歴
昭和41年 4月 安田古城先生に師事
昭和47年 4月 貝原司研先生に師事
昭和53年 4月 大東文化大学入学と同時に宇野雪村先生に師事
昭和53年 8月 第30回広島県美術展初出品初入選 以後毎年入選
昭和54年 7月 第31回毎日書道展前衛書部初出品初入選 以後毎年入選
以後、毎日書道展、奎星展、玄美展、県美展、玄曠書道会展などを中心に発表、入賞入選をされている。
平成 4年 3月 全日本書道連盟代表団員として寿山を中心に訪中
平成 5年 2月 第1回個展 於フジグラン広島
平成10年 3月 毎日書道会、奎星会、玄美社、玄曠書道会を脱会
平成13年 1月 天皇盃全国都道府県対抗男子駅伝賞状揮毫
平成14年 8月 アサヒ飲料「おいしい旨茶」パッケージ「茶匠喜作園」を刻印
平成15年 8月 第2回個展 於福屋広島駅前店
平成22年 8月 第3回個展 併催 第1回ふじ書楽グループ展 於福屋広島駅前店
■月の光が入るアトリエ
ゆるやかな丘の家並みに陽光が充ちて、行く人も散策の途中かのような趣。坪井先生のアトリエは遠景のパノラマが緑山と空に広がる街にあった。ここは高校の書道の指導に向かわれたり、書の研鑽を積まれたりされた氏の拠点であるとともにリフレッシュの場所でもあるそうだ。迎え入れてくださった氏と、書の社中で知り合われたという奥さまとともに、普段から近所をきらめく星空のもと、ウォーキングをしたり、月光が部屋の奥まで照らす時は二人でお酒とともに語らうなど、この地で過ごす時間を楽しまれている事を伺った。
■文武
書道家にはスポーツもよくする文武両道の方がいらっしゃるが、坪井先生は、まさに高校球児として青春を過ごされたという練達の士だ。強豪の広商の野球部で2年の秋にはレギュラーでセカンドを守り、同世代ではカープでコーチとして活躍している選手がいる。今でも高校教諭をする野球部OBの仲間たちと集まるが、その大半が体育や商業を担当し、野球部の部長や監督をしている中で、書道を担当し野球部と関わりを持たない坪井先生は珍しい存在。高校では書道の他に「情報」の授業を担当されるなど、文武の文の方も伝統と先進の全範囲を修めていらっしゃる。自らを筆文字請負人と称され、ホームページを開設されているが、これも先生が自分で作られたそうだ。
■寿山行、素材への想い
平成4年の早春に全日本書道連盟代表団の一員として寿山を中心に中国に行かれた。寿山は隆起したサンゴ礁の石灰岩、天然の洞穴が非常に多く、自然林は「都市の肺」と呼ばれ市民の憩いの場であるが、篆刻をされる書道家には印材の名所である。寿山石といわれ田黄、高山凍、杜陵坑、善伯洞など良質で美しい材が得られるそうだ。書を続けていると自然に素材に明るくなり、氏も印材を相当コレクションされているとのこと。沢山有る中からいくつか手元に出して見せていただいた。印材の大きさも米粒のようなものから大きなものまで様々だ。書に欠かせないものを究するのは筆も墨もそうであるとのこと。それぞれの書に一番合うものを考えるからだ。観音高校のサッカー部が全国大会に出場したおりには5m×20mの横断幕に馬の毛の筆で大書された。大会に臨む若者の気概にふさわしい勢いを存分に刻むためだ。スポーツ選手であった氏には、選手や応援団の心地がよくわかるからこそ、その心に沿った筆跡で具現化出来るのだと思う。
■書が解け込むクオリティ・オブ・ライフ
坪井先生は書道家としての学究と共に、筆文字を生活の中に提供していく活動を続けている。物も、画像も文章もコピーが溢れている現代では、頭の中まで借り物の思考で埋め尽くされているようなもの。ふと気付くと余人の雑念が断片化して集積している。ひとりひとりの人生の内容や社会的な生活の質を高め、人生に幸福を見出していくには、生活の中に心のこもった本物に触れる時間が必要と考える。結婚式の名札や賞状揮毫など身の回りの書を本物にしていく。
■オリジナリティの付加反応
臨書をするにも自分の心を載せる。前衛書も学ばれた。心に常にとどめているのは最も尊敬する上田桑鳩先生の「人のまねをするな。自分のまねをするな。」の言葉であると言われた。伝統の技を踏襲するときも、一つでもオリジナリティを足す、あるいは引くことで新たな趣を生成する。作品そのものの独創性以外にも、10余年前から個展を開くようになって、作品の飾り方、表装による作品の見せ方も工夫するようになったとのこと。先達諸氏の展開の仕方を見ながら、自分なりのアイディアを加えて展示をしていくのが楽しいといわれた。日々の研鑚がオリジナリティの源なのだ。同じ時を刻まない。氏が書の世界で呼吸する今が未来の作品を変えていく。
■夏日山中
坪井先生のアトリエに伺ったのはとりわけ暑い夏の朝だった。そこで書いていただいた「夏日山中」の心地よさは体感に臨んでいた。
【李白】
懶搖白羽扇
裸袒青林中
脱巾掛石壁
露頂灑松風
白羽扇を搖かすに懶し
裸袒す 青林の中
頭巾を脱して 石壁に掛け
頂を露わして 松風に灑ぐ
白い羽根の扇を動かすのも面倒だ
青く茂っている林の中で裸になる
頭巾をぬいで石の壁にかけ、
松風にふかれているのが心地いい
<文/泉尾祥子 ・ 写真/原敏昭>