アトリエ訪問第31回 石橋 清氏

「風景を描くときは、自然の中に入っていく事。生かさせてもらっている自分に気づく感謝の時だ。」

  雨できれいに洗われた空気、大田川を遡る路沿いの、今も拡がりつつある街に石橋先生のアトリエがあった。制作中の大きな絵画、小さめのキャンバスに何枚も描かれているエスキース、壁際にうず高くつまれたスケッチブックのタワー。その中で明るく輝く目の先生が私たちを迎えて下さった。

  「楽しんで描く、一生懸命描きつづけると、自分でないものが見え、描ける瞬間がやってくる。」旺盛な制作意欲は 80 の齢をゆうに超えても衰えることがない。制作中の作品はすでに完成されたがのように私にはみえる。だが先生はまだまだ描きこんでいかれるという。
  「計画をもって、早くにとりかかり、全力投球しなければ余裕はできない。絵には心の余裕の成果が出てくる。」若い時分にデザインの仕事もしつつ、事業を起こした前向きな力強さは、絵を描く姿勢にもいきていらっしゃるようだ。
  旅先で自然に分け入り、ひたすらにキャンバスに描き止める。この繰り返しで先生は奥深い人生観を形作られたようだ。
「この世界で進化途中の木も草も、人や全ての生き物も、元はひとつ。星の元素をお互いに共有している仲間だと実感する。」見たままをそのまま描く事を通じて、先生の内に沁み入るような自然への感謝と描ける幸せが生成されている。そんなお話のなかに、絵描きとしての人生を謳歌されているように思えてきた。

  現場で描く事を重要視される先生の作品に、牛窓のオリーブ園がある。風に吹かれて葉の裏が白く輝く風情、陽光にあたためられた空気が画面の奥まで満ちている。絵を観る私たちも薫風を嗅ぎ、描かれた先生の幸福感を共有できる瞬間。狭い社会のブロックの一つのような自分も、人間の帳から解放される心地がした。

<文・泉尾祥子/写真・原敏昭>

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取材中の風景