アトリエ訪問第48回 重本天空氏

書の古典を大切にしつつ、新しい感覚を織り込んで、現代に活きる作品を書きたいと願っています。

・日展会友、・読売書法会理事・審査員、・謙慎書道会常任理事・審査員、・槙社文会会員
・槙社文会展名誉会長賞受賞、・広島県書美術振興会常任理事、・呉美術協会理事
・呉市美術展審査員、・呉市書道協会副会長、・書道研究天游文会主宰、・聖筆書道会会長

■書体のこと

  私は書道に関しては全く無知なので、今回はご迷惑をおかけすると案じながらも、重本先生に1から教わるつもりで失礼を省みずお伺いした。
  アトリエでまず目に付いたのは条幅というのだろうか縦長の和紙に朱書された6種類のお手本であった。文字は読めないし意味がわからない。「書は読むもの意味を書くものではなく自分の思いを盛り込んで表現するものだ」とお聞きして少しほっとする。そこで最初に書体の名前を一つづつ教えていただくことをお願いした。
  まず書道の基礎になる楷書、情緒的でわび・さびの世界を表現する特徴があり、鋭さと歯切れのよさをみせる関東風と、柔らかさ、優美さをみせる京都・大阪が中心の関西風とに分かれるそうだが、先生は東京の大学で中国文学を専攻し実技を学ばれて、関東風だと言われている。
  次が隷書、この言葉を私は始めて耳にしたが、日本銀行券の額面で見られる姿であった。秦の始皇帝時代からある篆書は青銅器に刻まれた書体であるのに対し、隷書は石碑や木簡や竹簡に書かれた姿で、刻す文字から書く文字へ移り変わった姿だそうだ。
  そして行草体、行書と草書の中間的な存在であり、行書は紙の発明により隷書の走り書きに興っていて、後で調べると王羲之などの書が有名だった。お手本はさらに多くの人が書かれる漢字にかな文字を交えた調和体とかな書が並べられていた。

■聖筆書道会のこと

  聖筆書道会が発行している会報「書林」は、先代芸城会長から引き継がれて今年8月号にて通巻911号に達している。これ以外にも子供用の会報を出されている。呉の焼山に本拠を構えたこの書道会数千人のネットワークは国内だけでなく台湾まで及んでいてその歴史と組織の広がりに驚くばかりであった。
  会報には先生方のお手本や参考作品、競書入選作品、順位表、会員相互のメッセージなどが毎月編集され通信教育や研究会の媒体になっている。正式な出版物として形ができ上がり、専任の担当者がいるとはいえ毎月の編集では特に人名の校正に相当なエネルギーを要していることが伺えた。

■耳順

  8月25日から大学の同期卒業有志45名による「耳順書展」が東京銀座画廊で開かれる。私にとってこの聞きなれない耳順がやけに気になってお聞きしたところ、論語為政の「三十にして立つ。 四十にして惑はず、 五十にして天命を知る。 六十にして耳順(したが)ひ、七十にして心の欲する所に従ひて矩を踰えず。」からの引用で、先生達が還暦をお迎えになるからということであった。六十をはるかに超え、未だ拘りが強く素直に他人の意見を聞き入れることができない私としては極めて「耳痛」ひ言葉で、強く心に響く教えになった。
  お蔭で書道展が一層興味深くなり、作品鑑賞が残された人生を豊かにしてくれると思う。

<文/馬場宏二・写真/原敏昭>

>>こちらより先生のページへ移動できます。

取材中の風景