作風にこだわらず対象を拡げていきたい。
■プロフィール:
1956年 福山市に生まれる
1979年 東光展初入選
1983年 東光展「東光賞」受賞
1990年 広島県美展無鑑査
1994年 東光会 会員推挙
日展初入選(以後4回入選)
現 在 東光会会員
■現場主義から始まった
大学の4回生の卒業制作から本格的な画業にはいられた。それから若いうちに感性を磨こうとヨーロッパを回り、スケッチをしたそうだ。訪れた国はイタリアやギリシャなど10ヵ国を超える。
長い間人々の生活を見続けた石文化の建物は、歴史の重さも加わって重厚で、肌合いが魅力的。
長谷川氏が描かれる風景に、”水辺の街”がいくつもある。寺院や橋、堅牢な構造物を映す水面は、すべてを受け入れるかのようにやさしく温かい。人物が描かれていなくても、そこでよき日々を過ごしている人々の温度が伝わる。これは氏がこの空間を直に感じ、親しく対話したことが映しだされているからかもしれない。
■土地・陶器・質感
現在のアトリエは、氏が初めてこの土地を訪ねた時、夜景がきれいだったことが決め手で、ここに建てることを決めたのだそうだ。私たちがアトリエを訪ねた日、日差しが強く、外は酷暑といってもよかったが、高台にある窓からの景色が透き通しで開放感抜群。目からも風を感じる場所だった。大きな作品の収納や運び出し、光源の工夫など行き届いた設計に人柄がにじみでている。”心”と”場”の明晰なユニゾンを見た。
スケッチ等で様々な場所に行かれた折、氏は路傍の窯などに立ち寄り、気に入った陶器を一点求める。それぞれの土地柄を反映した肌ざわりや模様、色などがあって楽しいとのこと。いまでは相当なコレクションになっていて、思い出とともに飲み物を味わえる。氏の画面の質感を大事にしている感性と、通じるものがありそうな気がした。
■次々に現れる山頂
学生の時、自分と先人との差は少しだと感じていたそうだ。ずんずん登って行くうちに一息ついてみると、遥か向こうにいままで気付かなかった新たな山頂が見える。またそこを目指して歩く。次々に頂きは現れ、まだどんな山なのか分からない。とのこと。
これからも、スタイルを固定することにはこだわらず、作風が変わってもいい。どんどん対象を拡げていきたい。といわれた。氏が創る画山の景色。険しいところや厳しい天候もあるのだろう。でもきっと、造られていく道は苦渋が昇華し、風光明媚に違いない。
<文・泉尾祥子/写真・原敏昭>