アトリエ訪問第22回 久保田 辰男氏

「ふるさと」をテーマに自分にとっての「ふるさと感」を表現したいと日頃から思っています。

プロフィール
1963年 広島大学教育学部美術科卒業
1963年より一水会展出品 受賞8回
1984年 安井賞展入選(’88 ’90同)
1995年 年賀ハガキ用原画制作(’2000 ’2002同)
1996年 第14回ヒロシマアートグランフォ’96受賞 同記念展
2003年より一水会選抜展出品 (日本橋三越本店)
現在 一水会常任委員 日本美術家連盟会員

  五日市インターから高速に乗って約1時間、一昨年東広島市に合併された福富にある久保田先生のアトリエを訪問した。作業服で庭の手入れをされていた先生に出迎えられ、次にお話を伺うときは真っ赤なカープのTシャツ姿に一同驚きを隠せなかった。そこは高台にあって、広い縁側から見える山や森、水田や畑、散在する家屋の景色は霧に囲まれるとそのまま絵になる。以前は豊田郡竹仁村であったそうで、先生はその村で生まれ、大学に入学するまで住まわれていた。呉に始まった長い教師生活を終えられる前にこの場所を求められている。

  今では毎週末広島市内からご夫妻仲良くお出でになり、大作に取り組みながら、時に庭木を慈しみ木工細工をされ、時に地元小学校の強い要請により児童に絵を教えられている。天井が高く広いアトリエには製作中の絵の他に、若い頃の作品が展示されていて、家屋全体がギャラリーになっている。1・2階の収納スペースも敷地やアトリエ同様に広い。
その中で絵の仲間だけでなく地元の皆さんと酒を酌み交わし、奥さんが点てたれたお茶を嗜む毎日は我々世代の理想郷といえるのではなかろうか。

  先生が表現される鄙の世界は、かやぶき屋根の民家や、牛や梟、母親、家族が住む古里で少年時代の原風景である。筆者も幼い頃、夏休みになると、蒸気機関車に乗って祖父母の住む田舎に出かけていたが、祖父と共に牛を引き一輪の手押し車を押して畦道を歩いたことをつい懐かしく思い出させてくれるような絵ばかりだ。どう言い表せばよいかわからないが、観る人の心を癒し豊かにさせる作品であることだけは間違いない。

  ただし、先生の油絵は細い絵筆を用い、線描で根気よく組み立てられた独特の手法なので、写実を超えて印象深いものになっている。一枚の絵が完成するまでには小さなものでも3カ月を要するそうだが、パステル画や水彩画のほかに色鉛筆やペン、ボールペンを使い、和紙や羊皮紙(パピルス)に新たな表現も試みられている。数年前に描かれた官製はがきの原画は、蛍光色に近いアクリル絵具で描かれていた。それら多様に表現された作品や、村上俄山先生と合作された作品を拝見して、なんとなく美術の奥深さを教わった感じがする1日であった。

<文・馬場宏二/写真・原敏昭>

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取材中の風景