「風に舞う木の葉、残された鳥たち、動いているもの、静かにそこにあるもの、時流を超えて存在する”もの”を見つめたい。」
高地先生に導かれ訪れたアトリエは、松永カントリークラブに近い高地農園にある。父君が造られた広い農園は高台にあって、沢山の温室も今は休業中であるが木樹や草花、更には竹林などに囲まれている。広い芝生を占拠したテリア犬?と色とりどりのチューリップの花や芝桜が我々を出迎えてくれた。
アトリエの玄関は芝刈り機や草木を手入れする道具が収納されていて出番を待っていた。奥のアトリエには大作が何枚も並べられていて、その一つが第9回春季二紀展に於いて選抜奨励賞を受賞したばかりの「風の記憶」で、この作品は当ギャラリーに展示中である。
そこで「風」「時の流れ」のテーマや「壁」「彫刻」「花」「木・葉」などのモチーフについて詳しくご説明頂き、なんとか作品の理解を深める事ができた。先生は紀元前より現在に至る2000年を越えた時の流れと、そしてその時空間の中で記憶に残り忘れ去ってしまいそうなもの、心に刻んだものを「風」や眼の前に存在するギリシャ彫刻の「アフロディーテ」や「花」「木・花」などに喩え、いかに心のキャンバス=壁にしっかり刻みこむか・・・そのイメージの表現に向け様々な挑戦を重ねていらっしゃるように受け止めた。
先生の絵との出会いは中学時代に開かれた大阪万博だそうで、会場や新聞で見たダリの作品が特に強い興味を呼び起こされたそうだ。そして絵の道に進み、県立高校・広島大学付属中学・高校の美術教師を経て、現在は大学の准教授として入試制度の研究を兼ねながら、一貫して学生達が大人になっても文化・芸術を愛する心を持ち続けるよう絵の指導を続けられている。我々はそれが学校の芸術教育の本質ということを思い知らされた。確かに中学・高校から芸術の道を志す人は限られている。このような教育を受けた学生のなかで将来社会的に成功した人達は我々同様、必ず芸術家のサポーターになっていくことであろう。
西洋の石の文化の存在感から受けた影響をどこまでもアナログである絵の世界に生かし続けながら、一方ではコンピューターグラフィックから3D、ネットワーク環境の活用まで先進的に IT 技術を取り込まれてきたスキルの高さなど先生の多能ぶりは別のところでも学生達に大きな刺激を与えていることに違いない。
<文・馬場宏二/写真・原敏昭>