アトリエ訪問第37回 橋本 一貫氏

実際の風景をそのまま写し取るのではなく、情景を構成していく。
寂寥感のある光景に魅かれて描きつづけている。

  灰色がベースの遺跡なのにあたたかい匂いがする。9月の声を聞いてすぐに訪ねた橋本一貫先生のアトリエでは、描画中大きな作品があった。周りはワイングラスやギリシャの杯、牛骨などの様々なモチーフ、沢山の資料、製図台などで囲まれていた。

  最近はギリシャ旅行で取材した題材で描き続けていると言われた。実際に訪ねた風景に時の流れを重ねて再構成しながら描く。画面につかう色をあらかじめ何十種類も作ってから描いていく手法は、現代の油絵なのに日本画の乳鉢や、いにしえのヨーロッパの顔料をつかう絵画を想起した。主題は「時を感じる寂寥感」とのことなので不思議にその連想がしっくりとする。

  絵画の道に入る契機は高校生の時に師事した先生の言葉だったと伺った。芳しい才能がそのまま往く道を示したのではないだろうか。学生時代に描かれた絵をみせていただいて、その重圧感と蓄えられた時に圧倒された。烔々と輝く橋本先生の目はものの形だけでなく四次元を見通しておられるらしい。描きとめられた対象はただ在るだけでなく綿々とつづく時のかなたを含んでいる。同じ画面の中に仄暗い空間と光に満ちた空間が描かれている事が多いのも多次元をおもわせ、奥行きにひきこまれる。

  時によせるイメージは以前の明暗に暖かさが加わって、最近の絵は明るくなってきたそうだ。歴史を見る目に愛情が感じられるほどだ。絵の中の遺跡の麓で過ごす時間には郷愁や悠久を楽しむ余裕がふくまれている気がした。

<文・泉尾祥子/写真・原敏昭>

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取材中の風景