第56回アトリエ訪問   是永昭宏氏

■プロフィール
1971年 広島に生まれる
1988年 両眼視力障害となる(原因不明)
1995年 第43回光陽展初入選 以後毎年、’03会員推挙
2001年 第9回絵のまち尾道四季展入選、第10・11・12・13回入選
2006年 54回光陽展 損保ジャパン美術財団奨励賞
2007年 第55回光陽展 会員奨励賞
2008年 第2回朝日・銀座展 審査員賞
2009年 サン・フランシスコ号漂着400周年記念公募展 メキシコ大使賞
2010年 川尻筆「筆と芸術の祭典」全国水墨画公募展2010 協賛企業賞
2011年 川尻筆「筆と芸術の祭典」全国水墨画公募展2011 奨励賞
第14回絵のまち尾道四季展 尾道市長奨励賞
現在   光陽会会員

心の眼で描く。
絵を見に来てくれるひとに力づけられる。
絵に出会う事によって人生に希望を見いだすことができた。

■ 家族の肖像
鯉のぼりがたなびく季節。是永先生の自宅に伺った。筆者がお話を聞く のはこれで2度目だ。 前回は奥様とちいさなご子息の暁嵩くん同席で、画家と家族の姿というテーマの取材に応じていただいた。
乗り物が大好きな息子さんが先生の膝の上で遊んだり、奥様と訪れたイ タリアの写真をみせていた だいたりして楽しく過ごさせてもらった。 暖かな雰囲気に、最近母子像をテーマに描かれている機会が多いことに 納得したものだ。 今回、リビングには更に列車の写真が増え、「絵を描くためにアトリエ にこもっていると『パパがんばって!』と言いにきたりするんだよ。」と、にっこり先生が話されるなど、ますます家族のふれあいから充実したエネルギーを得られているように感じた。

■ 失ったことから得られたもの
将来について現実的に考え始める高校生の時、建築デザイナーになりたいと美術部をつくって励んで いたが、その頃から視力が低下し、だんだんと見えなくなった。卒業後、就職し、まだ絶望感から抜けきれなかった頃、絵に再びアプローチし、描き続けることで人生に希望がみえてきた。

■ 空気を感じる。手元で描く。
視力をほとんど奪われているのに、どのようにしてこんな風景が描かれるのだろうと私などは不思議に思う。実際、尾道の絵などは、現場に行ってその場で感じる時間や季節、そして心に浮かび上がる色彩を表現しているとのことだ。描くときはルーペで筆先を確認しながら進めていく。ミクストメディアの作品も多い。五感を駆使して感じることを伝えるのに、それは自然な選択だろう。半立体のような母子像からあふれる空気感は鑑賞する方も、視覚を他の 感覚の記憶でおぎなって初めて近づける気がする。

■ 鑑賞するひとと触れ合う公募展に参加し、絶えず評価をもらうことで自分の精進を確かめ、また個展をひらいて、直接観るひととふれあい正直な感想をまた作品に活かす。作品を発表する機会を多く設定しているのは自分の成長を促すためだそうだ。個展の数は多い。目標を設定しエネルギーをかける。チャレンジの数でバリエーションを拡げていく。その中から新しい作品が生まれる。行き詰まるときはまた新しいタイプ に挑戦してみる。同じ作品を作る必要性を今は感じない。やさしい表情のまま今の心持ちをストレートに話してくれた、若い画家 の無尽蔵な気概がみえてくる。 心の眼で描く画家は一つの枠に縛られない魂を育てている。

<文/泉尾祥子 ・ 写真/原敏昭>

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取材中の風景