第76回アトリエ訪問 画家 高松良幸

プロフィール

1950年

高知県に生まれ

1986年

第71回二科展初入選 以降連続出品

1988年

第19回広島勤労者美術展 奨励賞

1996年

第81回二科展 特選

1998年

第83回二科展 会友推挙

2003年

ギャラリーブラックにて個展

2005年

第90回二科展 会友賞

2006年

ギャラリーブラックにて個展

2007年

ネッツギャラリーBOX個展

2008年

ギャラリーブラックにて個展

2010年

ギャラリーブラックにて個展

2013年

八千代の丘美術館 第12期展示

第3回青木繁記念大賞西日本美術展 入選

季節はずれの寒波の中、高松先生のアトリエを訪問した。

■思考と実践の体現

散らかっていてごめんね、と通されたのは設計の仕事をされる氏のオフィスであった。イーゼルを立ててあるスペースがオフィスのすぐ隣にある。収納と仕切りの二役を持つ壁面をはさんで、次回の提出用の100号作品がイーゼルに立てられていた。明るいその場所からは、大きなサッシをはさんで様子のいい木が生えている庭が見えた。アトリエといえば性質上物の多くなる場所ではあるが、氏が言うように散らかっているようには感じられない。がしかし、机の上には、大量のメモが積み上げられている。エスキースのような絵の構成メモ、絵画教室のワークショップアイデア、仕事に関する内容などのメモだ。仕切りの収納棚の中には、仕事のものと思われるファイルに並んでいて、そこにも絵に関する資料があり、中から数点ファイルを取り出して、見せていただいた。過去のメモをファイリングしたもの、これはと思った美術展のチラシなど、こうして集めた資料や、メモが制作のベースとなり、自分の感性を追求していくことができるという。思考と実践が形になった氏のアトリエだ。

■人間がかかわった風景へ寄せて

「風景が好きです。風景といってもnature(自然)よりも人がかかわった風景、そちらのほうに魅力を感じます。」と語られる。しかも、風景そのもののというよりはその”シルエット”を捉えるのだという。以前お住まいだった宇品周辺の景色を写真に収めたものを見せていただきながら、氏の好むモチーフについて伺った。解体現場や、古い建物、電線が交錯する空の写真。80年代の当時から見ても、もう『ふるいもの』になっていたであろう景色は、氏の独特の視点で切り取られている。氏の作品にはタイトルには「~の記憶」とつけられたものがあるように、描いているのは風景に拠るものだが、そのものを描いているわけではない。そこにみられる人間の関わった痕跡を含め、その気配を描いているとお話になった。

■絵を描く環境

氏の絵の原点は学生時代にあったという。特に一時期美大への進学を夢見た高校時代、所属ししていた美術部で、同じく美大を目指していた仲間と絵に打ち込んでいた時代があったそうだ。その美術部では、部員が運動会や文化祭では、門などイベントにまつわる装飾を担当して、凝った作品を作ったりしていた懐かしい思い出の話をしていただいた。「絵は一人で描くだけではない。見る人があってこそ。人とかかわってこそ。《何かをする、見せる、チャレンジする》テンションの上げ方は、ここ来ている」とも、お話になった。美大には進学しなかったが、大学でも絵は描き続けた。学生時代はあまり作品を発表するという発想はなかったが、初めての個展は、当時オーナーが全国折り紙協会の代表であった東京荻窪のレトロな喫茶店が常時絵を展示しており、お願いして開いたという。その後も大学の仲間とともにグループ展を行うなど、絵を描くことと平行して発表することを続けてこられた。「絵を描くには、精神力・体力・環境(仲間)、この三つが揃わないとね。単なる絵が描くことが好きだからや、暇だったらでは絵はかけないからね」笑顔を見せつつ話が弾んだ。発表するというのはとてもエネルギーの要ることだと思うのだが、現在も定期的に個展を開かれているのは氏の学生のころから培われた資質によるところがあるのではないかと推測する。

『絵を描くこと』を続けるために選んだのが二科会だったそうだ。社会人になっても、絵を背負って飛行機に乗り四国へ転勤。その後の1985年に広島。一人ではやめてしまうかもしれないと思っていたところ、二科会広島支部長であった増田勉先生との出会いが二科に出品するきっかけとなる。初出品は1986年第71回二科展、以降連続入選が続いている。二科会は絵を続けていくための環境という。二科会との出会いは、本当にたまたまラッキーなことだと思っている、と氏は話す。二科会に限らず、公募展の出品する方は、皆さん大変な努力をされていると思われる。精神力・体力・環境(仲間)、さらに作品を書き上げるためのテンション、氏のおっしゃる通りだ。今は二科会の事務局をされていて、広島の二科にとってなくてはならない人だと、同会の作家の方がおっしゃっている。

■教えること、学ぶこと

現在、ヨコタ教室では絵画の指導はもちろん、月に一度作ワークショップを行っている。マチエールの体験と研究、コラージュを通しての構成、色や絵の具などの道具についてなど、表現者自身の制作を助けるための工夫に満ちたワークショップは、一緒に描くスタンスをモットーにしている氏の教室ならではの楽しみだ。実践とともに詳細の書かれたシートの用意も学ぶ人の為に氏が丁寧に作っている。最初は作業に戸惑いのあった人も、今は新しい道具や、技術を取り入れ自分の表現の幅を広げているそうだ。自身のこれからについてお伺いすると、表現者として普通のことをもっとまじめに勉強しないといけないとお話になった。表現するための技術を高めるために、日常の手習いが大事とも。アトリエにある氏が手がけた複数のコラージュは、それだけで作品として成立しているが、絵を描く上で大切な勉強の一環とも捕らえられる。ゴールはないけど、もうちょっと一生懸命やっていくと、力強いお言葉をいただいた。

<文・中木風子/写真・原敏昭>

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取材中の風景