「自然や自分の体験で得たものを再構築して 表現を試みている。」
先生がお勤めの市立尾道大学は、新尾道駅から近く、周りを山と池に囲まれた瀟洒な建物だった。少し離れた小高い場所に体育館と並んで、まるで鋳物工場のごとき金工室がありそこが先生の工房であった。正直なところ大学の春休み初日に、前知識なくいきなり先生をお尋ねしたものだから、先生の「ご講義」で見聞したことを後日ホームページにて確認することになった。この美術館の工芸の頁にリンクされているが、先生のホームページ http://home.384.jp/sakurada/は手作りとは思えないほど充実している。工房の様子や、作品の製作工程も写真でしっかり知識を得られる上、過去の数々の受賞作品~例えば1993、1997洞爺村国際彫刻ビエンナーレお買い上げの「風のレクイエム」「BIRTH」や1995、2000、2004 日本現代工芸美術展の受賞作品なども見ることができる。
金工はアルミニウム、真鍮、銅、鉄、ブロンズなどを立体的に加工する設備や重量のある金属の塊を移動させるクレーンなど備えなければならないので、企業や公的な学校以外に個人が工房を持つ事はまずできないだろう。だから日本鋳金家協会のメンバーは全国でわずか100人余りだけで、特別な芸術の世界といった印象が強い。
鋳金が銅像や梵鐘、花器、置物、ジュエリーなど昔から美術品や工芸品をつくる技術だと再認識させていただいたが、先生の作品は発泡スチロールなどの発泡素材を原形とするフルモールド法や、歯科技工と同じ蝋を使ったロストワックス法をもとに試行錯誤を経て製作されている。そのお話をお聞きして自分が抱いていた現代美術品の概念となんとか合致させることができた。
尾道大学には文学や芸術を愛する学生が全国からどんどん集まるようになっていて、全国に向けた芸術・文化の情報発信基地のようになりつつあるが、ここがまさにその中心的な役割を担っている感さえある。
我々美術館ボランティアスタッフ5名は製作過程をしっかりお聞きしてから、次に本校のスタジオ設備のある部屋で、台に乗せた作品を回転させての3D撮影や超高画質撮影を行う間に、先生がお一人で何気なく木箱から取り出された数々の入賞作品を見せていただいた。我々はその重さに驚きながら、初めて3次元の世界にある工芸品の鑑賞法を学ぶことになった。それは30度~45度の角度から作品を鳥瞰的に見て、規範に縛られない作家の示す造形的なサイン、加工された金属の組み合わせや研磨などの工程、作家の持つ感情や思考など織り交ぜた心象表現などなどを如何に感じ取るかにあるように思えた。
撮影が終わると学生達の卒展が始まったということで、先生には桜坂にある市の美術館会場にもご同行いただいた。そこで、これから社会に旅立とうとする彼らが創作するジャンルの広さと可能性に目を奪われたが、尾道水道を見渡せる美術館のロケーションも素晴らしく、おかげで尾道の良さを改めて知るアトリエ訪問になった。
<文・馬場宏二/写真・原敏昭>