アトリエ訪問第38回 木村 毅氏

木村先生とは初対面なので、所属されている一水会が、「西洋絵画の伝統である写実の本道を守り、安易な会場芸術を非とし、技術を重んじ高雅なる芸術をめざす」ことを確認したうえ、当美術館の展示作品の「対峙(梅花)」にみる先生の作風に興味を持ってお伺いした。

  先生のアトリエは、美術館の事務所から車で5分とかからない己斐山の手の、落ち着いた雰囲気の住宅団地のなかにあり、心地よい秋の陽光を受けていた。

  きちんと片付けられたアトリエで、最初に目に付いたのはイーゼルに乗っている細長い女学生の人物画だった。そして大小2つのギターと沢山の小物を並べた棚、さらに大きなスピーカーの上の新しいMACであった。顕微鏡や科学室の小道具などもあってアトリエと実験室や書斎が混在していた。見せていただいたのは、大小2つのギターの小さい方、バックパッカーというギター。そのあとご自分が作詞作曲された数多くの曲の中から、昔録音された、歌声が若い「Oh My Town Kabe」という曲を聴かせて頂く。そのうち、昔対面したことのあるさだまさし氏に、先生が見えてきた。
  音楽と絵画、出会いは絵画のほうが早く武蔵美に進学された後、音楽に嵌ったということであるが、もともとは手塚治虫などの漫画の世界からデザインやイラストそして本格的な油絵(現在では、アクリル絵の具を主に使用されているそうだが)に進まれたそうなので、数々のご趣味が高じた結果が今にある。

  人物像がなぜ細長くなってしまうのかお尋ねしたところ、「細長くないと気持ちが落ち着かないので、意識しないうちになんとなく細長くなってしまう。なぜかと訊かれても、その感覚を言葉に置き換えると別のものになるような気がするのでうまく答えられない。」というご返事。つい最近、モディリアーニ~真実の愛~のTV映画をみたばかりなので、顔と首が異様に長いプロポーションで目には瞳を描き込まない絵がつい脳裏をよぎる。

  広島に戻り中学の教員を経て市立高校の美術の先生になられたそうだが、指導に際しては、「美術は言葉や論理ではない、気持ち、感覚であるから、理屈抜きでとことん描いて、自分の感覚や気持ちを探ったり、鍛えたりしてもらうこと」「生徒の進路も様々なので、専門的な教育ではなく、誰にも美術を好きになってもらい、心を豊かにすること」、「本人の発想や表現手法を大切にし、伸ばし広げる支援を行なうこと」を大切にしているということであった。

  「誰にも美術を好きになってもらい、心を豊かにすること」はこのインターネット美術館の目指すところと同じかなと我田引水の気持ちを抱いて面談を終えた。

<文・馬場宏二/写真・原敏昭>

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取材中の風景