アトリエ訪問第26回 市谷 實氏

・・・・ む ・・・無心でキャンパスに向かう。

プロフィール

1948年 広島県生まれ
個展、凛の会展、渦展などグループ展を中心に展開
光陽会委員、光陽会賞、他多数受賞
青木繁記念大賞公募展 入選
06年 川の絵画大賞展 入選
アトリエむいち 主宰
19年11月28日から12月2日迄 第37回渦展開催
19年11月28日から12月2日迄 第7回凛の会展開催

  先生のアトリエは広島市の中心部、平和公園から近い本川町にある。昔からの知り合いにお会いしたような懐かしさを覚えながら、冒頭、気になっている「むいち」の由来をお聞きした。画家としての名声や物欲にこだわらない、世間に媚びない無欲恬淡の「む」、尊敬する画家・熊谷守一の「無一物」の造語ということなので、そこから先生の哲学を理解した気分になって大いに話が弾んだ。

  小生が、先生の作品のなかで一番インパクトが強いと思うのは、鰭を立て鯰のような髭を持つ「おこぜ」を描かれた作品である。自画像をおこぜに置き換えられたのかと勝手に解釈していたが、それは間違いであった。倉庫兼ねた別のアトリエが江田島にあって、その近くの漁師さんから生きたおこぜを貰い受け、それがあまりに面白いので、一晩中、水槽のおこぜと睨みっこしながら何枚も何枚もスケッチされたという。

  「しっかり対象を見て描く。」「形を取れないとどんな表現にせよ発展できない。」これが先生の一番大事にされるところであるが、この基本を修得するために、生徒さんたちは裸婦のデッサンとクロッキー描写を月2回続けている。モデル代を少し負担すれば誰でも?参加できるようだが、生徒さんの中には日曜画家のレベルを超越された方もあるという。

  先生はスケッチの天才香月泰男をベンチマーク(目標とする基準)にされている。さらに、洋画界にありながら、「欧米の石の文化より日本の木の文化、日本画の曖昧さが好き」「教会の壁画より寺院の襖絵が良い」「上手な絵より絶対に人が真似のできない絵」という価値観を持って、今は広島城の石垣と向き合い「売れる絵より後世に残る絵」を目差し独自の表現に、彫りと磨きをかけ続けている。

<文・馬場宏二/写真・原敏昭>

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取材中の風景